市の南東に位置する南御厨(みなみみくり)地区。かつて、伊勢神宮の御領地で、穀物を生産して奉納していました。今も、豊かな田園風景が広がっています。
現在、この地域にはおよそ1300世帯3000人の住民が暮らしていますが、令和2年9月末、この地区内を通る路線バスが廃止され、高齢者などの買い物や通院のための移動手段が大きな課題となりました。
そこで、高齢者や交通弱者の生活を手助けしたいと立ち上がった住民たちが協議を重ね、令和5年9月、地域が自主的に運営する移動支援サービス車「もろこ号」が出発しました。
この「もろこ号」は、南御厨交流センターの東側に流れる古川(ふるかわ)(旧太田川)に生息しているカワバタモロコという川魚から名付けられました。現在は、絶滅危惧種に指定され、野外で見かけることはほとんどありませんが、自然豊かなこの地域のシンボルとして、古くから親しまれています。
住民の移動手段の危機に瀕(ひん)しても、地域の努力と思いやりで、今、地域の新たなシンボルとなりつつある「もろこ号」の取り組みを紹介します。
【「もろこ号」出発まで】
■地域をめぐる背景
◇路線バスの廃止
全国的に路線バスが減少するなか、市でも同様にバス路線の減便や廃線が進みました。南御厨地区もバス事業者のドライバー不足や利用者の減少などの理由から、令和2年9月末でJR磐田駅から南御厨地区を結んでいた路線が廃止されました。
◇バスの利用者
1975年5月に南御厨地区に東新町団地が建設され、高度成長期の働き盛りの世代が多く入居し、通勤などでのバス利用が多かったことで、路線バスの運行が維持されてきました。
しかし、自家用車の普及などが進み、現在は、JR磐田駅からバスを使った移動は減少しています。また、高校生の通学手段についても、市内では自転車通学者の割合が、バスによる通学よりも多く、路線バスの利用率に影響が出ています。
◇高齢化と移動手段
高齢化は南御厨地区も例外ではなく、特に東新町団地は市内でも高齢化率が高い状況となっています。
また、高齢者によるブレーキとアクセルの踏み間違いなどの事故多発に伴い、運転に不安を抱え、運転免許証の返納を検討する高齢者も増加傾向にあります。しかし同時に、免許返納後の移動手段に大きな不安を抱える方も少なくはありません。
◇事業者
少子高齢化に伴い、バス・タクシー事業者は、利用者の確保や人手不足によるドライバーの確保が難しくなっています。
加えて、新型コロナウイルス感染症がもたらした移動需要の変化は、利用者の減少やドライバー不足などの交通事業者の経営に、さらなるダメージを与えました。
■「地域の困りごとは何だ。」から始まった活動
◇公共交通の未来を考える会
バス廃止については、利用者や住民から今後の移動手段に関する不安と不満の声が聞かれました。南御厨地区にはスーパーがなく、コンビニが1店舗、また病院も2医院のみで、特に、高齢者や運転免許証を持たない交通弱者の不安が大きくなりました。
そこで南御厨地域づくり協議会は、移動手段の問題だけにかかわらず、「地域の困りごとは何だ。」をテーマとして地域の課題を整理し、「交通弱者を近所の人がサポートする仕組みづくり」を優先度の高い取り組みに掲げました。
令和3年12月には「公共交通の未来を考える会」を立ち上げ、行政と連携して、デマンド型乗合タクシーの利用促進とあわせて、地域ボランティアによる移動支援サービスの始動に向けて活動を進めました。
■動き出す地域
「公共交通の未来を考える会」は、まず市の高齢者の移動手段を確保するサービス「デマンド型乗合タクシー」の説明会を各公会堂で開催しました。そこで新たに約100人が利用者登録をし、利用促進に繋げました。
次に、全国移動サービスネットワークから講師の派遣を受け、移動支援サービスについての勉強会や他市の移動支援サービス車の視察をしました。
また、住民主体の移動支援サービス車の始動に向け、行政の協力を受け、ボランティアドライバー希望者に、運転の心構えと安全走行のスキルアップを図る安全運転講習会を行いました。
◇デマンド型乗合タクシーとは
市内を8つの地区に分けて運行している予約型乗合タクシー。
自宅と指定施設の間を運行時間を定め、低額で利用できます。
◇地域が知恵を出し、汗をかく。
・安全運転講習会
・デマンド型乗合タクシー説明会
・ボランティアドライバーに向けた移動支援サービス勉強会
■地域の期待をのせて
地域の努力と行政との連携、そして住民の期待を受けながら、令和5年9月29日に、移動支援車サービス「もろこ号」が出発しました。
ボランティアドライバーが、毎週火・水・金曜日に、5人乗り車両の「もろこ号」を運転します。
車両は、リース車両で、リース料、車両燃料費、任意保険などは、市の地域づくり一括交付金を利用し、車両の管理運用を行っています。