■茶園には小さい生き物がいっぱい~茶園に生息する虫の多様性~
静岡県立農林環境専門職大学 教授
小澤朗人(おざわあきひと)
磐田市には、磐田原台地を中心に茶園が広がっています。茶園が集まっているという点では、県内でも牧之原台地に次ぐ屈指の規模でしょう。さて、見慣れた茶園ですが、ここにはどんな生き物が住んでいるのでしょうか?
実は、茶園では他の農作物の畑と比べて、そこに生息する生き物の多様性が極めて高いと考えられています。野菜はもちろん、同じ永年性作物である果樹よりも多様な生き物(虫)が茶園には生息しています。その理由としては、茶が永年性の常緑樹という安定した環境を有しているだけでなく、茶樹の複雑な立体構造や、樹上から散布される農薬が茶株の内部に届かないことなどが考えられます。
茶の害虫は126種以上が知られていますが、これらを食べたり寄生したりする小さな天敵生物が、それこそ数えきれないくらい茶園に生息しています。筆者らは以前、茶園にいる天敵生物を約10万頭集めて分類しました。その結果、クモ類57種以上、寄生バチ類19科・推定100種以上、カブリダニ類12種以上、ゴミムシ類8種以上、テントウムシ類8種以上など、特定の茶園での調査にもかかわらず、実に多様な天敵生物を発見することができました。害虫でも天敵でもない「ただの虫」に至っては、調査すら困難でした。
茶園では、小さく目立たない存在ではあるものの、枝葉や落ち葉などを住処(すみか)としている小さな生き物たちが織りなす複雑な生態系が形作られています。こうした他の作物には見られない豊かな生態系が保たれているからこそ、美味しいお茶ができるのだと思われます。