■加熱すれば食中毒は防げる?~移り行く食中毒事情~
静岡県立農林環境専門職大学 准教授
内藤 博敬(ないとう ひろたか)
「食中毒」は夏の季語ですが、現代の日本では事件数、患者数ともに夏にピークはなく、一年を通じて起こります。こう書くと食中毒は増えているようですが、実際は逆に激減しています。25年程前には年間約3千件あった事件数は千件を下回り、年間4万人いた患者数も1万人を切っています。この理由は、言うまでもなく食品添加物の適正利用と、流通や販売時の冷蔵保管技術の向上などによるものです。こうした科学技術の正しい利用によって、日本人は寿命も健康寿命も世界一を維持できているのです。
食中毒の予防といえば、病原体を「付けない」「増やさない」「除く」の三原則で、新鮮な食材をしっかり加熱調理することが推奨されています。しかし、食中毒は加熱調理だけでは防ぐことができません。先日、病院の食堂で前日に作り置きした惣菜による食中毒の報道がありましたが、提供時には加熱していたとのことです。原因となった病原体はウエルシュ菌で、2022年の食中毒報告では患者数が第一位の細菌です。加熱調理後、翌日まで放置することがあるカレーや肉じゃがなどを原因とした報告が多いです。多くの細菌は熱で殺菌できるのですが、この菌は環境が悪くなると形態を変化させて休眠し、増殖できる状況になるのを待ちます。
他にも熱や消毒薬に強い菌や毒素はありますので、調理後はできるだけ速やかに食べ切ってしまうことを心掛けましょう。どうしても保存するのであれば冷蔵・冷凍保存してください。