■肺がんの診断・治療の進歩について
副病院長兼呼吸器内科部長
妹川 史朗(いもかわ しろう)
日本人の死因の第1位は「がん」を中心とする悪性新生物です。その部位別の死亡率で、肺がんは男性で1位、女性では2位であり、注意しなくてはいけない病気の一つです。原因として、喫煙の影響が有名ですが、遺伝的な要因、大気汚染、粉塵(ふんじん)の影響なども知られています。近年、肺がんの診断方法、治療が著しく進歩してきました。
肺がんの診断のためには、肺に新たに出現した病変(びょうへん)を採取して、がん細胞を確認するため、気管支鏡検査を行います。その際、超音波を併用して、以前より確実に病変部を採取できるようになりました。また、近年では、これまでの生検鉗子(せいけんかんし)※で病変を採取する方法とは異なり、病変部を凍らせて採取する方法も行われるようになってきています。この方法は、通常の生検鉗子で採取するより、大きな組織がとれるのが特徴です。
治療薬の開発も目覚ましく、殺細胞性の抗がん剤以外に分子標的薬、血管新生阻害(そがい)剤、免疫チェックポイント阻害剤と、作用機序(きじょ)※の異なるさまざまな治療薬が複数使用できるようになりました。これらの治療薬の組み合わせや投与の順番などは、がん細胞の遺伝子の変異の有無や、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するタンパク(PDーL1)の発現の程度を参考に、より効果が期待できる方法を選択して治療を行います。また、副作用に対する対策も進歩し、治療による苦痛症状も軽減されてきています。
しっかり治療を行うことにより、肺がんを患(わずら)う前とそれほど変わりない生活が送れる患者さんも増えてきています。今後もさらなる治療の進歩が期待されます。
※生検鉗子…組織の一部を体内から採取するための処置具
※作用機序(きじょ)…薬が治療効果を及ぼす仕組み